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山本聡子さんの治療

樋口院長「診察や検査の結果、山本さんの舌粘膜には異常が見当たらず、神経障害性疼痛による痛みで、「身体症状症、疼痛が主症状のもの」でもあることがわかりました」「山本さんが心配されていた舌がんではありませんでした。痛みさえ我慢できれば特別な治療は必要ありません」

山本さん「舌がんではないということがわかってホッとしました。しかし、痛みそのものが不快で我慢できません。何とか治してください。」

樋口院長「では、今日から早速お薬の治療を始めましょう」

国際疼痛学会のガイドラインでは、神経障害性疼痛に対して最初に三環系抗うつ薬かリリカを使用すると規定されています。リリカには眠気やふらつきの副作用が報告されており、ときどき車を運転する山本さんにはこの副作用が心配です。したがって、三環系抗うつ薬のトリプタノールを使うことにしました。トリプタノールには10㎎錠と25㎎錠がありますが、最初は10㎎錠1錠から開始し、毎日夕方に服用しました。トリプタノール

トリプタノールにも眠気や便秘、口の渇きなどの副作用がありますが、どの程度の副作なのか、副作用があっても飲み続けることが可能なのかに

ついては、患者さん本人が実際に薬を飲んでみないとわかりません。副作用に関しては個人差が大きいからです。したがって少量からスタートし、徐々に増量していきながら副作用の有無を確かめるのです。このような理由から、山本さんは最も少ない10㎎錠を1錠内服することから始めました。2週間後に山本さんが来院されました。

樋口院長「舌の痛みはいかがですか。お薬はちゃんと飲めましたか」

山本さん「おかげさまで少し痛みが楽になりました。薬を飲んだのでそんな気がするだけかもしれませんが」

樋口院長「薬は毎日飲めたのですね。副作用はありませんでしたか」

山本さん「昼間少し眠くなりますが、薬を止めなければいけないほどではないです。寝つきが悪いので内科でもらった睡眠薬をよく飲んでいましたが、この薬を飲み始めてから夜は寝やすくなりました」

樋口院長「そうですか。眠いのは薬の副作用だと思います。薬を続けていくうちに体が馴れてきて眠気がましになる場合もあります。続けていけそうですから、予定通り今日からトリプタノールを20㎎に増量しましょう」「少しずつ増やしていけば、いつか痛みがなくなったり、痛くても気にならない程度に軽くなったりすることが期待できます」「ところで最近どこかで血液検査を受けたことがありますか」

山本さん「いいえ、ここ数年は検査を受けていません」

樋口院長「どの薬でもそうですが、薬を続けると肝臓などに副作用が出ることがあります。そのため、特に症状がなくても定期的に血液検査を行って肝臓や腎臓の働きに異常がないかチェックした方がよいのです。次回来られた時に血液検査をしましょう」

山本さん「はい、わかりました」

 2週間後に山本さんが来院されました。舌の痛みは少し楽になり、初診時の痛みを10とすると、現在は8か9ということです。副作用の眠気も軽くなったようなので、トリプタノールを30㎎に増量することになり、予定通り血液検査を行いました。

 後日、血液検査の結果には何も異常がないことが確認されました。その後も2週間ごとにトリプタノールを増量していくと、痛みも眠気も軽くなっていきました。便秘の副作用が出てきたので漢方薬を服用してもらうと、症状が改善しました。その後も便秘の状態に応じて漢方薬を増減しながら治療を続けました。

治療後山本

 トリプタノールの使用量が増えると稀に心臓への副作用が出現するため、トリプタノールが70㎎に達した時点で循環器内科の医院を受診してもらい、心電図などをチェックしてもらいました。結果は異常なしでした。

 薬を増やすにつれて舌の症状は軽くなり、90㎎の時点でほとんど痛みは感じなくなりました。その後はこの量で服用を継続していき、再度行った血液検査でも異常はありませんでした

トリプタノール90㎎で症状はほとんどなくなったものの、時おり痛みが再発することがありました。お話をうかがってみると、お子さんとの間にもめごとがあると痛みが出るようで、そのもめごとが解決すると痛みも自然に軽くなるようです。しかし、だんだん身の回りの問題にうまく対処できるようになり、痛みがひどくなることはなくなりました。

トリプタノール90㎎の服用を継続しながら2カ月に一度通院してもらううちに、半年が経過しました。ほとんど痛みがない状態が半年続いたので、薬を中止しても痛みが再発する可能性は低いと予想されます。

樋口院長「調子がよくなってから半年が経ちましたね。そろそろ薬を止めても大丈夫ですよ」

山本さん「そうですか。大丈夫かどうかちょっと心配ですが、うれしいです。もう薬を飲まなくてもよいのですか」

樋口院長「いや、そうではありません。急に薬を止めると、めまいや吐き気の症状が現れる「抗うつ薬中断症候群」の恐れがあります。治療初期に抗うつ薬を徐々に増やしていったように、中止する時も徐々に減らしていく必要があります。早速今日からトリプタノールを80㎎に減らしましょう」

山本さん「薬を減らしていくと、また痛みが出るかもしれませんね。それが心配です」

樋口院長「痛みが出ない確率の方が高いですが、人によっては減量中に痛みが出ることもあります。その場合はまた薬を増やしていき、さらに半年間継続することになります」

山本さん「わかりました。早く治療を終わりにしたいので、とりあえず今日から減らしてください」

その後トリプタノールを徐々に減薬していきましたが、痛みが再発することはありませんでした。トリプタノールを10㎎まで減らした後、薬をストップしました。幸いなことにその後も痛みの再発は見られず、山本さんは無事卒業となりました。

 今回ご紹介した山本聡子さんの場合はトリプタノールがよく効き、治療期間は1年近くかかりましたが順調に治療を終えることができました。もちろん実際にはいつもうまくいくとは限らず、舌痛症の患者さんの中には薬の効果が限定的で、治療前よりも痛みは軽くなったが依然として痛みが続く方もいます。副作用が強かったり、心臓などに持病があったりするとトリプタノールやリリカを使えない場合があります。そのときは他の抗うつ薬を用いたり、麻薬系の鎮痛薬を用いたりと、臨機応変に対応していく必要があります。

 痛みそのものの改善が難しい場合は、日常生活の支障を取り除いたり、痛みの緩和を目指ざしたりする取り組みが必要となります。痛みに気を取られている状態、痛みのために気分が落ち込んでいる状態であれば、認知行動療法により痛みの捉え方を切り替えていくことも必要です。舌痛症に対しては、薬物療法と認知行動療法を車の両輪のように組み合わせて治療を進め、経過を観察していく方法が最も効果的といえます。

 ところで、舌痛症と一口に言っても患者さんごとにその症状や原因はさまざまですから、これまでに私が出会った舌痛症の例を幾つかみていきましょう。なお山本さんと同様、個人情報保護のために主要となる情報以外は脚色を加えています。

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