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舌痛症の原因-舌粘膜に異常が見られない場合

1. 神経障害性疼痛

 体のどこかに痛みがある場合は、必ずそれなりの理由があります。転んで打ってしまった、誤って包丁で指を切ってしまった、火傷した、腐りかけたものを食べてお腹が痛い。これらの場合は皮膚や筋肉、粘膜などに何らかの損傷が加わった結果、痛みが生じているわけです。このような痛みを「侵害受容性疼痛」といいます。

侵害受容性疼痛以外に、痛みには神経そのものが傷ついたり、神経に何らかの異常が生じたりすることによって発生する痛みがあります。このような痛みを「神経障害性疼痛」といいます。実際には、舌痛症の多くが神経障害性疼痛であると考えられています。しかし、舌痛症の患者さんには後述するような明らかな神経の損傷が見当たらない場合が多く、現時点では「舌痛症―神経障害性疼痛説」が正しいと確定したわけではありません。では、次に神経の損傷が明らかな例を見ていきましょう。

(1)舌神経の損傷

 舌の手術や下顎の親知らずの抜歯の際に、舌神経が傷つくことがあります。舌神経は舌の多くの部分の痛みと関連しているため、舌神経損傷によってしびれが生じると同時に舌が痛む場合もあります。

(2)三叉神経痛

 顔面の触覚は三叉神経を通って脳に伝達されます。したがって、三叉神経が何らかの理由で圧迫され障害されると、三叉神経痛が生じます。三叉神経痛は突然起こる強烈な痛みで、数秒から数分の間に消えてなくなるという特徴があります。

(3)脳腫瘍、脳出血、脳梗塞、ギランバレー症候群

 三叉神経が脳腫瘍や脳出血によって圧迫されることにより、三叉神経痛が生じる場合があります。また、三叉神経痛のような発作的な痛みではなく、持続する痛みが生じる場合もあります。脳梗塞やギランバレー症候群では、三叉神経の元となる脳内の神経組織が変性することにより痛みが生じます。

(4)糖尿病

 糖尿病による高血糖状態が続くと神経組織に不要物が溜まったり、神経の周囲の血流が低下したりします。その結果、神経が障害されて神経障害性疼痛が生じます。

(5)ヘルペスウイルスの感染

 私たちのほとんどが子どもの頃に単純ヘルペスウイルスに感染し、唇に口内炎(口唇ヘルペス)ができた経験を持っています。このウイルスはその後三叉神経節に棲み着き、免疫力が低下した場合などに増殖して、その度に口唇ヘルペスを発症させます。水疱瘡の原因となる水痘―帯状疱疹ウイルスもヘルペスウイルスですが、水疱瘡に罹った後も同様に三叉神経節に棲み着きます。そして病気や過労により体の抵抗力が低下すると、水痘―帯状疱疹ウイルスが増殖して帯状疱疹を発症させるのです。

 これらのヘルペスウイルスが神経節に棲み着いて増殖すると神経が損傷され、神経障害性疼痛が生じます。中でも帯状疱疹を発症し、皮膚や粘膜の病変が治癒した後も続く神経障害性疼痛の一種を「帯状疱疹後神経痛」といい、治りにくい痛みの一つであるとされています。

2.筋・筋膜性疼痛

 筋膜とは筋肉や内臓を包む薄い膜のことです。「筋・筋膜性疼痛」とは筋肉や筋膜の痛みを意味し、血行が悪くなって縮んでしまい硬くなって凝った状態であると理解してください。このような筋肉は押しても動かしても痛むものですが、舌にも筋・筋膜性疼痛が生じる場合があり、やはり舌を押したり動かしたりすると痛みが生じます。

3.身体症状症、疼痛が主症状のもの

 一見しただけではわかりにくい病名ですが、「身体症状症」とは患者さんが痛みなどの症状を非常に苦痛とする病気をいいます。痛みを伴う病気であれば、これまで紹介してきたものも含めてあらゆる病気が身体症状症に当てはまりそうですが、身体症状症という病名は「患者さんがどの程度苦にして問題を抱えているか」に焦点を当てたものです。つまり、通常の病名とは別の概念を持つ病名であるとご理解ください。

 「身体症状症、疼痛が主症状のもの」は、かつて「心因性疼痛」や「疼痛性障害」といわれていたものと似ています。心因性疼痛とは、身体には異常がないにもかかわらずストレスなどの心理的要因が原因となって生じる痛みのことですが、心理的要因が原因であるかどうかを実際に解明することは大変難しいことです。また疼痛性障害とは、身体に痛みの症状に合致する異常がないにもかかわらず痛みが続く原因不明の病気ですが、痛む理由が全くないと見究めることも実は大変困難です。このような現実的な事情から、心因性疼痛や疼痛性障害という病名が「身体症状症、疼痛が主症状のもの」に置き換えられたわけです。

4.本態性疼痛

 別名特発性疼痛ともいいますが、「本態性」「特発性」とは「原因不明」という意味です。痛みの原因をいくら調べても、まるでわからないという場合も珍しくありません。その種の痛みに対しては原因を探すことは棚上げにして、痛みを和らげることに治療の目標を切り替えます。中には、本態性疼痛であるはずの痛みの原因が後から明らかになる場合もあります。

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