麻酔注射で意識がなくなる理由
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歯の治療で麻酔注射をしたら意識がなくなった、意識が薄れて朦朧となった、というような経験はありませんか。該当する方は、「麻酔が合わない体質」であると認識されているかもしれません。
しかし、実際は麻酔の注射液に問題があるわけではなく、別の原因があります。「血管性迷走神経反射」が生じたのです。血管性迷走神経反射は「デンタルショック」ともいわれ、歯の治療時にしばしば見られるものです。
迷走神経とは心臓や消化器、声帯の働きを調節している神経です。歯科治療にかかわらず、不安や恐怖感があったり、極度の緊張状態になると迷走神経の働きが強くなります。その結果、心拍数の低下、全身の血管の拡張による血圧の低下、脳に送られる血液量の減少などが起こります。
私たちに不可欠な酸素は血液の流れによって全身に送られるため、血液の量が減ると脳が酸素不足に陥ってしまいます。酸素不足によって脳の活動性が低下すると、すーっと血が引くような感覚や冷や汗、吐き気、突然目の前が暗くなる症状が現れたり、胃腸の違和感が生じたりします。中には、意識が朦朧としてきて喪失する場合もあります。
麻酔注射は、このような血管性迷走神経反射を起こしやすい代表例といえます。注射に対する恐怖感、痛み、これから始まる歯科治療に対する不安や恐怖感などが、一気に押し寄せる場が麻酔注射です。歯科用チェアユニットの上で麻酔の注射を行い、終了して起き上がって口を漱ぐ、この時が最も危険な瞬間です。横になった姿勢から急に起き上がると通常時でも脳に血液が上がりにくいものですが、これに血管性迷走神経反射が加わると脳の酸素不足が顕著になるのです。
血管性迷走神経反射は痛みそのもの、痛みに対する恐怖感から生じやすいため、「疼痛性ショック」とも呼ばれています。予防法は、もちろん麻酔注射の痛みを軽減することです。注射中に血管性迷走神経反射が起こりそうになった場合はすぐ起き上がらず、しばらく横になった状態を保つと回復します。朝食を抜くと血管性迷走神経反射が起こりやすいといわれているため、歯科治療の日は朝食をとりましょう。