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むし歯菌と脳卒中、認知症

論文・記事 2022年08月02日

むし歯菌は常時口の中にいる細菌で、通常は脳の中に棲息していません。ところが、悪条件が重なると悪性のむし歯歯菌が脳血管内に棲み着き、脳卒中や認知症を引き起こすことがわかってきました。
悪性のむし歯菌について説明しましょう。ミュータンスレンサ球菌に代表されるむし歯菌は、歯の表面に付着したデンタルバイオフィルムの中で人間が飲み食いして取り込んだ糖を酸に変えます。そして、その酸が歯を溶かしてむし歯が発生します。
ミュータンスレンサ球菌の中のストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)は、血清型分類によりc、e、f、kの4種類に分類されます。細菌が人間の血液成分の1つである血清と接触すると、血清は凝集反応などさまざまな防御反応を示します。この反応の違いによって細菌を分類する方法が血清型分類です。
ストレプトコッカス・ミュータンスの多くはc型ですが、少数派(5%以下)のf型、k型にはコラーゲン結合能があります。これらf型、k型の細菌が脳血管内に棲み着くためには、当然口の中から脳まで移動する必要があります。
口の中のケガ、口内炎、神経まで達する虫歯、歯周病による出血などが生じると、細菌が血管の中に入り込み、血流に乗って全身を駆け巡ります。健康な人の体内では、血管内の多形核白血球などの働きにより血管内に入り込んだ細菌は駆逐されますが、血管が傷つき穴があいていると、細菌がそこから逃げ出すチャンスが生まれます。高血圧症や生活習慣病を患っていると、脳の血管に傷がつき微小出血が生じることがあります。70歳以上の日本人の約15%に脳内微小出血が見られると報告されています。
腦血管の内部は血管内皮細胞で覆われていますが、血管が傷つくとこの内皮細胞層が失われてコラーゲンが露出します。通常であれば、露出したコラーゲンの表面に血小板が集まり、傷は修復されて再び内皮細胞で覆われますが、コラーゲン結合能を持つf型、k型ストレプトコッカス・ミュータンスが先にコラーゲン層にくっ付くと血小板が集合できず、微小出血が続きます。同時にストレプトコッカス・ミュータンスが白血球からの攻撃を逃れ、棲み着くことが可能になると、脳卒中や認知症のリスクが高まるのです

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